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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)2391号 判決

控訴人 小松建設株式会社

右訴訟代理人弁護士 中山与三郎

被控訴人 佐藤富保

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は、左に附加するほか原判決事実摘示と同一であるから、右記載をここに引用する。

控訴代理人は、「控訴人が被控訴人に対しその主張にかかる約束手形を振出したことは認めるが、右は控訴人が昭和四十年五月初頃被控訴人に請負わせた道路石積工事外二件の工事代金の前払として振出したものであって、うち金五万円は同年六月七日被控訴人に弁済した。残金八万円については控訴人は被控訴人に対し下記のとおり債権(合計金十一万二千百二十七円)を有するので昭和四十一年三月七日右債権と被控訴人の本件手形金債権とを対当額において相殺する旨の意思表示をなした。

即ち控訴人は(一)被控訴人が訴外富田晴二に支払うべき工事材料代金三万二千八百円を昭和四十年六月十日頃同人に立替払いをなし、(二)被控訴人が支払うべき労務者に対する賃金四千八百円を同年七月二十四日被控訴人のため立替えて支払い、(三)被控訴人が訴外群馬県信用保証協会に対して負担する債務(十一万四千七百四十六円)につき、保証人として被控訴人のため同四十一年五月九日金七万四千五百二十七円を右協会に支払い、因って被控訴人に対し夫々右と同額の求償債権を取得したものである。以上により被控訴人の控訴人に対する本件約束手形金債権は全額消滅したから被控訴人の本訴請求は失当である。」と述べ、証拠として乙第一号証の一、二、第二号証の一ないし四、第三号証の一、二を提出し、乙第一号証の二は被控訴人作成にかかるものであり、第二号証の四は控訴人が本訴提起前被控訴人との債権関係を明らかにするため作成した計算書であると附陳し、当審証人富田晴二、同山口仁の各証言を援用し、

被控訴人は、「控訴人から金五万円の支払のあった事実は認めるが、本件約束手形は控訴人から請負った工事の代金十九万八千円中金十三万円の支払のため振出されたものであって、右五万円は本件手形以外の工事代金として受取ったものである。控訴人の相殺の抗弁のうち(一)については控訴人が被控訴人のため立替払をしたことはこれを認めるが、その金額は二万六千二百円である、(二)の事実はすべて認める、(三)については被控訴人が訴外群馬県信用保証協会に対し債務を負担していること及び控訴人が右債務の保証人になっていることは認める。」と述べた。

理由

一、控訴人が被控訴人に請負わせた工事代金支払のため被控訴人に宛て被控訴人の主張する約束手形一通を振出したことは当事者間に争いがない。

二、そこで控訴人の抗弁につき判断する。

控訴人が被控訴人に対し昭和四十年六月七日債務の弁済として金五万円を支払ったことは当事者間に争いがない。然るところ被控訴人は右五万円は本件約束手形金以外の工事代金として受取ったものであると主張するが、被控訴人が控訴人に対し本件約束手形金債権以外に債権を有することについてはこれを認むるに足る証拠はないから、右五万円は控訴人の主張するとおり本件約束手形金に対する弁済として支払われたものと認めざるを得ない。

次ぎに相殺の抗弁については、控訴人が主張する自働債権の発生原因事実中(二)の事実は被控訴人において認めるところであり(一)の事実は当審証人富田晴二の証言及び右証言により真正に成立したものと認める乙第三号証の一、二を総合して又(三)の事実は、当審証人山口仁の証言によって何れもこれを認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。而して控訴人が右(一)ないし(三)の債権を以って昭和四十一年三月七日(当審第一回口頭弁論期日)被控訴人に対して本件約束手形金債権と対当額において相殺する旨の意思表示をなしたのであるから、本件約束手形金債権及び遅延損害金債権は、前記自働債権の発生日(右債権の性質上発生と同時に弁済期が到来しているものと認められるので、発生と共に相殺適状にあるものと云える)に、右各自働債権と対当額において消滅したものというべきであり相殺の順序について、特段の主張のない本件では右自働債権の発生日の順に先づ本件手形金と、これに対する満期以降昭和四十年六月七日までの年六分の法定利息より金五万円を控除し、かくて残存する手形金(元金)とこれに対する同月八日以降(一)の自働債権発生の日までの利息と(一)の立替金債権を相殺し、次いで残存する手形金(元金)債権及び利息債権と(二)の立替金債権とを相殺することとなり、かくて残存する手形金債権額は利息を含めても(三)の保証弁済金額に及ばないことは計数上明であるから被控訴人の本件手形金債権は元利共、消滅に帰したものと云うべく、本訴請求は失当として棄却を免れない。

右と趣旨を異にする原判決は不当であるから 〈省略〉

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